植物目録

市町村合併で市域が広がったある市の,新市域の部分の自然環境に関する既存データの整理(id:kooi:20051002)の続きで,旧「○○町誌」などの既存資料にある植物リストをマージして1つのリストにし,環境省の「植物目録」の順に配列,県と環境省レッドデータブックにある種はそのカテゴリーを示す,という作業をした。
環境調査に携われば,この手の生物リストの作成は日常業務だ。手作業でするとしても,基本的にはエクセルのピボット集計とvlookup関数とソートの3機能だけしか使わない単純作業だ。複数の資料のデータを種名と資料名でピボット集計し,種名を使ってvlookup関数で「目録」のデータベースのコード番号を引き,コード番号順に並べ替えをすればよい。
この作業にはいくつもの問題点がある。1つは,「目録」にない種名ではコード番号が引けないことである。vlookupで#N/Aと返ってきてしまう入力には主に3種類あって,(1)データ入力時の誤記入(スペースが入ってしまったとか「オクマワラビ」を「オオクマワラビ」と書いてしまったなど),(2)一般に2つ以上の和名が使われている場合の別名を使用した場合(「ヘクソカズラ」と「ヤイトバナ」,「ニセアカシア」と「ハリエンジュ」など)やカナ表記のずれ(「カワヂシャ」と「カワジシャ」,「フォーリーアザミ」と「フォ−リ−アザミ」など),(3)元の目録にない新分類群や外来種,園芸種(「オオフサモ」や「ナガエツルノゲイトウ」など)である。(1)は入力を訂正することで対処し,(2),(3)は目録のマスターファイルに別名や新規分類群を追加することで解決する。だから,リスト作成のために使う「目録」のマスターファイルは,この手の業務をするところならみな独自に修正を加えて使っていることだろう。
ところで,「生物多様性国家戦略」以降,まず絶滅危惧種のリスト「レッドデータブック」が出版され,さらに最近は外来生物法の関係で外来種のリストが公開されている。環境省が出しているこれらのリストに載っている種はすべて「植物目録」のコード番号がついているかというとそうではない。「植物目録」は1987年に発行され,1994年に改訂されたあとは新版が公表されていない。みな独自の修正を加えて使っているのだ。そうすると,たとえば「ケアリタソウ」という植物は「アリタソウ」と同一種と見なすのかどうか,判断基準がない。これから,自然再生事業のモニタリングなど外来種の調査の機会は増えるであろうし,インターネット時代の全国的なデータ収集のためにも外来種を網羅した目録の改訂版が必要だと思う。
ちなみに,今日本で一番植物名のたくさん載っているデータベースは東京大学付属小石川植物園のサイト(今は千葉大のサイト)で公表されているBG-PlantsのY-Listだと思われる。しかし,保全生態学研究会のサイトで公表されている外来種リストの1500種あまりの植物のうち約1割はY-Listに載っていない。
さて,「○○町誌」の植物リストであるが,植栽と自生の区別がされていないので,「ゴヨウマツ」「カシワ」,さらに「サクラソウ」「ハナシノブ」「マツムシソウ」「ヒゴタイ」「フジバカマ」… (この町は海に近い平野部にある。)レッドデータブック記載種てんこ盛りであった。